シャトルバスに乗り遅れるところから、この旅は始まった。
妻と二人、JR小淵沢駅の改札を出て時計を見た瞬間、サントリー白州蒸溜所行きのシャトルバスが発車していた。冬の山梨。目の前には雪景色。しばらく二人で顔を見合わせた後、「タクシーで行こう」と私が言った。
結論から言うと、タクシーで正解だった。車窓から見えてきた雪化粧の白州の森は、送迎バスの定番ルートでは味わえない静けさと迫力があった。
この記事では、サントリー白州蒸溜所の見学ツアーとテイスティングバーの体験をお伝えします。蒸溜所巡りは旅の大きな楽しみのひとつで、中でも白州は特別な場所です。
※この記事の情報は訪問時点のものです。見学ツアーの内容や料金は変更される場合があります。最新情報はサントリー公式サイトでご確認ください。
アクセス:小淵沢駅から白州蒸溜所へ
サントリー白州蒸溜所は、山梨県北杜市白州町にあります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 住所 | 山梨県北杜市白州町鳥原2913-1 |
| 最寄駅 | JR中央本線 小淵沢駅 |
| アクセス | 小淵沢駅から送迎シャトルバス(約10分) |
| 予約 | 公式サイトから事前予約制 |
東京からのアクセスは、JR中央本線の特急「あずさ」で小淵沢駅まで約2時間。小淵沢駅からは蒸溜所の送迎シャトルバスが出ています。
私たちはそのシャトルバスに乗り遅れたわけですが、タクシーだと駅から約10分、料金は2,000円前後でした。正直なところ、雪景色の中をタクシーで走る体験は贅沢だった。シャトルバスに乗り遅れたことが、結果的に思い出のひとつになっています。
見学ツアー:ウイスキーが生まれる工程を五感で体験する
白州蒸溜所では、有料の見学ツアーに参加しました。製造工程を間近で見ながら、ガイドの方の解説を聞くことができます。
仕込み(Mashing)
最初に案内されたのは、仕込みの工程。大きな仕込槽(マッシュタン)の蓋が開いた状態で、中に黄金色の麦汁(ウォート)が見えました。
大麦麦芽を温水で糖化し、甘い麦汁を抽出する工程です。ウイスキーの味わいの基礎がここで決まると聞き、ビールの仕込みとの共通点に気づきました。蒸溜所巡りとクラフトビール巡り、どちらも「醸造」の世界。根っこは同じなんだと実感した瞬間でした。
発酵(Fermentation)
次に見たのは発酵槽(ウォッシュバック)。白州蒸溜所では木桶の発酵槽を使っているのが特徴です。
黄色いカバーの発酵槽が整然と並ぶ光景は壮観でした。蓋を開けると、中は暗い液体が静かに発酵している。酵母が糖をアルコールに変えている最中です。ここで約3日間かけて、アルコール度数約7%のもろみ(ウォッシュ)ができあがる。
木桶の発酵槽は、ステンレス製と比べて木に住む微生物の影響を受けるため、より複雑な味わいが生まれるそうです。白州の特徴的な爽やかさの一因がここにあるのかもしれません。
蒸溜(Distillation)
ツアーのハイライトは、蒸溜棟です。
銅のポットスチル(蒸留釜)が並ぶ光景は、何度見ても圧倒されます。白州蒸溜所には形の異なるポットスチルが複数あり、それぞれが異なるタイプの原酒を生み出しています。ストレート型、バルジ型、ランタン型。形が違えば、できあがる原酒の味わいも変わる。
銅の表面がうっすら緑がかっている蒸留釜は、長年使い込まれた証です。ウイスキー造りの歴史そのものが、このポットスチルに刻まれている。そんなことを考えながら、しばらく蒸留棟の中に立っていました。
貯蔵(Maturation)
最後に案内されたのは貯蔵庫。ウイスキーの原酒が樽の中で長い年月をかけて熟成される場所です。
展示では、1973年・1983年・1993年に仕込まれた原酒の色を比較できました。時間が経つほど色が深くなり、10年、20年、30年の違いが一目でわかる。熟成年数がウイスキーの味と価格に直結する理由が、視覚的に理解できました。
テイスティングバー:白州18年、25年、山崎18年を飲む
見学ツアーの後に訪れたのが、テイスティングバーです。
有料でテイスティングができるこのバーは、窓の外に白州の森が広がっていて、景色だけでも来る価値がある場所です。冬の日だったので、雪化粧した森を眺めながらウイスキーを飲むという贅沢な時間になりました。
有料テイスティングで飲んだウイスキー
テイスティングバーでは、通常のボトルでは手が届きにくい銘柄を、1杯ずつ有料でテイスティングできます。
私が注文したのは以下の銘柄です。
- 白州18年
- 白州25年
- 山崎18年
正直なところ、白州18年と25年の違いには驚きました。18年の爽やかさの延長線上に25年があるのかと思っていたら、25年は奥行きがまったく別次元でした。口に含んだ瞬間の複雑さ、余韻の長さ。25年以上の時間が樽の中で何をしてきたのか、飲めばわかる。
山崎18年は、白州とはまた違った趣き。白州が「森」なら、山崎は「秋の庭園」のようなイメージ。豊かな果実香と、滑らかでコクのある味わい。
妻と二人、グラスを傾けながら「これは家では飲めないね」と顔を見合わせました。テイスティングバーで1杯ずつ注文できるからこその体験です。ボトルで買おうとすると、25年はとてもではないですが手が出ません。
白州12年を手に入れた
この日、白州12年を購入できました。有料の見学ツアーに参加した人だけが購入できる特別販売です。ショップの棚に並んでいるわけではなく、ツアー参加者に配られる購入札を持ってはじめて買える仕組みでした。
訪問したのは2024年、ウイスキーブームの真っ只中。白州12年は一時販売休止になり、復活後も需要が供給を大幅に上回っている状態が続いています。転売目的の購入も問題になっていた時期で、こうした限定販売の仕組みは蒸溜所側の対策でもあったのだと思います。
「買っておいてよかった」と素直に思います。蒸溜所を訪れた記念でもあり、飲むたびにあの雪の白州を思い出す一本になっています。
帰り道のハプニング:JR中央本線が止まった
問題は帰り道でした。
小淵沢駅に戻ると、JR中央本線が雪の影響で運転見合わせ。線路に竹が倒れたらしい。復旧の見通しは立たない。冬の山梨の夜に、駅で一夜を明かす覚悟もしました。
結局、小海線で佐久平まで出て、北陸新幹線「はくたか」で東京に帰りました。普段なら2時間の帰り道が、大迂回ルートに。でも、妻と二人で車窓の雪景色を眺めながら過ごした時間は、これはこれで悪くなかった。
振り返ると、シャトルバスに乗り遅れたことも、帰りの電車が止まったことも、全部ひっくるめて「白州の思い出」になっています。
旅のトラブルは、時間が経つと一番おいしいつまみになる。蒸溜所巡りを続けていると、つくづくそう思います。
白州蒸溜所を訪れるなら
予約について
白州蒸溜所の見学は完全予約制です。人気が高く、特に週末は数ヶ月先まで埋まることがあります。訪問を決めたら、早めにサントリーの公式サイトから予約することをおすすめします。
おすすめの季節
私が訪れたのは冬で、雪景色が美しかったです。ただ、季節によって蒸溜所の表情は変わります。新緑の春〜夏も白州の森が映えるシーズンとして人気があるようです。
周辺の楽しみ方
白州エリアは自然豊かな場所で、蒸溜所のほかにもサントリー天然水の工場見学(南アルプス白州工場)があります。1日かけて白州を楽しむプランもおすすめです。
まとめ
白州蒸溜所は、ウイスキー好きでなくても楽しめる場所だと思います。製造工程の見学は知的好奇心を満たしてくれるし、テイスティングバーでは普段飲めない銘柄を1杯から有料で楽しめる。そして何より、白州の森の空気が良い。
旅先で蒸溜所を訪ねるのは、私にとって特別な時間です。まだ見ぬ土地を歩いて、その土地のウイスキーに出会う。マイルを貯めるのも、ホテルのステータスを維持するのも、こうした旅をもっと楽しむためです。
次はどの蒸溜所に行こうか。そんなことを考えながら、白州12年を開けています。

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